Project 03

須磨海浜公園 神戸須磨シーワールド

市民、観光客…多様な人が集う
豊かなエリアを創造する

発端はインターネット上の小さなニュースだった。2017年、神戸市が開園から30年を過ぎた「須磨海浜水族園」の建替えを検討しているという。サンケイビルが見逃すはずはない。サンケイビルはグループ会社を通して鴨川シーワールドを運営、今も国内屈指の水族館として高い人気を誇る。そのノウハウとサンケイビルの開発力を活かせば、水族館を核にした海浜公園全体の再生ができる。ホテル事業開発部(当時)の渡邊薫子が動き始めた。

関西開発第二部
兼 神戸パークPFI推進室チーフ

渡邊 薫子

2010年入社
家政学部 卒業

PROFILE

学生時代から住環境やまちづくりに興味があり、デベロッパーを志望。サンケイビルが開発事業に進出したばかりの会社であったことに伸びしろと自分自身にも活躍のチャンスがあることを感じて入社。住宅企画部でマンションの開発推進を担当した後、産休・育休を経てホテル事業開発部に異動。神戸須磨のプロジェクトを担う。

私たちでなくて誰がやるのか――
必ず地域再生に貢献できる

ビル賃貸業をメインにしていたサンケイビルが開発事業に大きく舵を切ったのは2000年代初頭のことだ。その後はオフィスや住宅、ホテル、物流事業などさまざまな開発に取り組み実績を積み重ねていった。ホテルリゾートについては2015年にグランビスタ ホテル&リゾートをグループに加え、千葉県にある鴨川シーワールドを運営している。鴨川シーワールドは開園から半世紀を経ているだけでなく、そもそも現在は水族館自体が衰退産業といわれているなかにあって、オフィシャルホテルと一体で国内外から多くの観光客を集め続けている。水族館運営のノウハウと、未来につながる新たなカルチャーの創出を目指すサンケイビルこそ、このプロジェクトを成功させることができると考えていた。まだ神戸市からの正式な公開情報はなく公募案も発表されていなかったが、サンケイビルは独自に企画案の作成を始めた。そこにアサインされたのが入社以来、住宅企画部で分譲マンションの開発推進を担い、その後は事業推進部(当時)でオフィスビルや賃貸マンション、ホテルの営業推進の技術的なサポートを担っていた渡邊だった。

市民に親しまれ、同時に
魅力ある観光拠点であること

須磨海浜公園は明石海峡大橋を見渡せる瀬戸内海に面した広大な敷地で、目の前には文字通り白砂青松の海が広がる。神戸市が全体を公園として整備して1951年に開園、その後、水族園や広場などが整備され、長く市民に親しまれてきた。その再整備がどのようなものであるべきか、神戸市は既存施設を活かしつつ、あらゆる可能性を含め検討していた。サンケイビルも神戸市に対して、単なる水族園の建替えにとどめるのではなく海浜公園全体を観光拠点として再整備し、観光誘致や賑わいの創出に活かすべきではないかという意見を述べた。
「観光地としての神戸の集客力は京都や大阪に比べて残念ながら劣っていました」と渡邊。「それを挽回するためにも園地と水族館、ホテル一体の開発を進め、Park-PFI※といわれる事業手法の中で、土地のポテンシャルを最大限に活かす事業案を当社から提言しました」。

※2017年の都市公園法改正により設けられた民間資金を活用した都市公園の新たな整備・管理手法。飲食店、売店などの収益施設の設置を認め、その収益を公園整備に還元することを条件に、施設の設置許可期間の延長や建蔽率の緩和などが行われる。

地元企業の賛同書も得て
地域一帯で取り組む

神戸市が事業の公募条件をまとめたのは2019年3月だった。示されたのは、「これまでの市民利用を継続させつつ、水族園及び海浜公園のポテンシャルを活かした再整備を行うことにより市民や観光客などの多様な人が集うエリアにすること」だった。事業手法としてPark-PFIを活用し、民間が収益施設と公共部分を一体的に整備すること、事業期間は30年とすることなども併せて求められた。
すぐに渡邊たちのプロジェクトチームはサンケイビル各部署や関係各社のサポートを受けながら“「つながる」海浜リゾートパーク”を基本コンセプトに、園地・賑わい施設、水族館、宿泊施設、駐車場などの各施設のプランづくりやイベントの検討など、300ページに及ぶ提案書の作成を進めた。「整備施設数の多さや30年の安定した事業計画など、難問はいろいろありましたが、最も心がけたのは、地元の人々がそれは自分たちのやりたいことだ、と共感してくださる・誇りになる計画にすることでした。ヒアリングを重ね、JVを組む企業体には地元に縁の深い企業にも参画してもらい、さらに私たちの提案内容を多くの地元関係者に示して『関心表明』をいただく努力を重ねました」。
2019年9月、神戸市はサンケイビルを代表構成員とする7社グループを優先交渉権者に選定、いよいよ整備事業の幕が切って落とされた。

市民公園と収益施設
つくりあげた一体感

誰もがさまざまなスタイルで白砂青松の海辺を今まで以上に自由に楽しめること、そして新たな水族館がつくる賑わいを一体のものとして実現することが最大のテーマだった。サンケイビルはJV7社を取りまとめながら施設の配置や利用者の動線、交流の仕掛けなどの工夫を進めていった。プロモーション計画もその重要な一環で、メディア系デベロッパーとしてのサンケイビルに期待されるもののひとつだった。「コンセプトワードやロゴのデザイン、ミュージシャンの選定やテーマソングづくりなど、私たちはどういう施設がつくりたいのかを一から考えることから始めました」と渡邊。広い敷地に点在する施設と訪れる多様な人の間に、この場所が何を目指しているのか、プロモーションを通してメッセージが伝わっていく。立体駐車場に始まり、園地・賑わい施設と順次オープンしてきた再整備事業は、2024年6月の「神戸須磨シーワールド」と「神戸須磨シーワールドホテル」の開業ですべて完了した。これからは“「つながる」海浜リゾートパーク”であるために、運営の見守りと改善を続けていく。
開業後の神戸須磨海浜リゾートパークは予想を上回る賑わいを見せている。中でも「神戸須磨シーワールド」の年間パスポートの販売の好調さが目立つという。地元の人が公園だけでなく施設全体を散歩がてら楽しみたいと考えている証しだ。市民公園と観光拠点の融合による新たな賑わいの創造――渡邊たちが目指したものが確かに形になった。

(2024年11月インタビュー)

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